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患者さんへのメッセージ

SLE専門医と
患者さんの対談
Vol.3

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全身性エリテマトーデス(SLE)専門医と患者さんのダイアローグ SLEの理解と、医師との疑問・不安・治療目標の分かち合い 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野(第一内科)  准教授 一瀬邦弘先生 × (仮名)井川陽子さん

2021年11月、ホテルニュー長崎にて取材

13歳の時にSLE(全身性エリテマトーデス)と診断された井川さん。過去に入院することもありましたが、
現在は症状が安定しており、主治医の先生やご家族・友人・職場の方の支えもあって、仕事にも励んでおられます。
主治医の一瀬先生と井川さんに、SLE患者さんが病気を理解する上での工夫や、疑問や不安、治療目標を共有することの重要性についてお話を伺いました。

SLEの発症から診断、病気の理解について

  • 井川さん:

    “図書館でSLEについて調べても、内容が難しく理解できませんでした”

  • 一瀬先生:

    “免疫疾患を理解するのは、大人でも難しい。絵や図を使って、分かりやすい表現で説明します”

井川さんは13歳の時にSLEと診断されたとのことですが、その時の状況をお聞かせください。

井川最初は微熱が2週間ほど続いて全身がだるく、食欲がない状態が続いて、次第に足が腫れて歩くのも難しくなってきました。近くの病院では風邪という診断を受けましたが、長期間症状が治まらないので別の病院へ行きました。そこで尿検査をしたところ、「すぐに大きな病院へ行ってください」と小児専門の病院を紹介され、その日のうちに入院になりました。

井川さんは、図書館などでSLEについて調べられたとお聞きしました。

(仮名)井川陽子さん

井川自分の病気への不安からSLEについて詳しく知りたいと思いました。ただ、図書館で本を探しても、医学書ばかりで、用語も難しく理解できませんでした。それに、患者さんによっても症状が異なるため、調べても自分にとっての正解が分かりませんでした。そこで発想を転換し、「先生を120%信頼して、なんでも相談しよう」と考えるようにしました。

(仮名)井川陽子さん

患者さんがSLEについてより理解しやすくなるようにするため、一瀬先生が取り組まれていることはありますか?

一瀬免疫疾患について一般の方が理解するのは、難しいことです。井川さんのように13歳という年齢では、なおさら大変でしょう。私は患者さんが理解しやすいようにインターネットを活用しています。絵や図を使って疾患を分かりやすく解説しているサイトがたくさんあり、文章だけでは理解できない内容も、視覚的に伝えることができます。その上で、医師がかみ砕いて分かりやすい表現で説明することも大切です。
また日本では、全国のSLE患者さん1,600人を対象とした研究「Lupus registry of Nationwide institutions (LUNA)」が行われています。年に1回、アンケート調査のほか、診療・検査データを収集しています。そのデータを分析し、SLE治療の現状についての情報を都度、発信しています。これらの中から患者さんに役立つ情報をお届けできれば、積極的に治療に取り組まれる患者さんをサポートできるのではないかと考えています。

患者さんの疑問・不安の共有

  • 井川さん:

    “思春期の頃は、外見や結婚・妊娠についてなど相談しにくいことがありました”

  • 一瀬先生:

    “検査数値だけでなく日常のことも質問し、何でも自由に話してもらえるようにしています”

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野(第一内科)  准教授 一瀬邦弘先生

井川さんが最初に入院された時、どのようなお気持ちが強かったですか。

井川それまで大きな病気にかかったことはなく、元気な子どもだったので、連日いろいろな検査を受けるようになり怖かったです。また、SLEと診断されるまでに約1ヵ月かかり、治療をしているのに病気が治らない状況が理解できず、周囲に対して不信感が募ってしまいました。

一瀬先生、不安や不信感を抱えるSLE患者さんに心を開いてもらうために、先生が工夫されていることはありますか?

一瀬先を見据えた治療目標を設定して、患者さんにも伝えて共有することが重要です。それが、患者さんから信頼していただくための第一歩だと思います。特に若い患者さんの場合、今の症状を抑えることも大切ですが、副作用などを考えた上で、10年後、20年後、30年後を見据えた治療の見通しを立てることが必要です。
さらに、治療が成長期の体に与える影響や外見の問題については、治療と並行して心理的なサポートも必要だと考えています。

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野(第一内科)  准教授 一瀬邦弘先生

気になる症状や不安がある中で、井川さんが特に相談しづらかったことはありますか?

井川私の場合は特に、顔の皮膚症状やムーンフェイス、脱毛といった外見に関することですね。それから、結婚や妊娠のことも気になっていました。今なら先生に質問できますが、思春期の頃はなかなか言えませんでした。

特に思春期の若いSLE患者さんは、疑問や不安を感じつつ、相談しにくいことも多いと思います。患者さんのお悩みを引き出し、共有する方法があれば教えてください。

一瀬問診の中で、「よく食べられていますか」「よく眠れていますか」「便通はありますか」の3点は聞くようにしています。検査数値だけでなく、日常生活の様子をきちんと把握することが重要です。

井川一瀬先生は、いつも詳しく質問してくださいます。前回の診察時のカルテを見ながら「こういうことがありましたが、その後どうですか?」と聞いてくださるので、「そうなんですよ、実は…」という感じで気になることもお話ししやすいですし、先生が気にかけてくださっているなと感じます。

一瀬質問方法には「はい/いいえ」で答えてもらうクローズドクエスチョンと、自由に答えてもらうオープンクエスチョンの2つがあります。自分の症状をうまく表現できない方には、まず代表的な症状をクローズドクエスチョンで聞き、次第にオープンクエスチョンも織り交ぜながら質問します。「そういえば、こういうことがありました」と話が膨らんでくると、最後は何でも自由に話してくれるようになります。

井川それから、具合の悪い時に、それがSLEの症状によるものなのか、薬の副作用なのか、自分が怠けているのか、区別できないと感じます。日によって症状も異なるので、次の診察の時にはすっかり忘れてしまっていることもあります。「こういう症状があった」ということを、普段記録できるものがあれば良いと思います。

一瀬SLEを客観的に判定するための物差しは2つあります。1つは血液検査や尿検査などの検査数値、もう1つは患者さんの症状です。
査数値にはあらわれてこない、だるさや微熱・関節痛などの症状は、実はSLEと関連しています。しかし、その症状を聞き取って、客観的に評価するための仕組みがまだ十分ではありません。例えば倦怠感などの症状を入力し、数値化できるアプリのようなツールがあれば、他の検査結果と一緒に評価しやすくなると考えています。

医師とのコミュニケーションと信頼関係

  • 井川さん:

    “SLEは体もつらいけれど、心もつらい。がんばり過ぎず、気持ちを「吐き出す」ことも大切”

  • 一瀬先生:

    “病気の症状で困った時や不安な時は、私たちはもちろん、周りの人を頼ってほしい”

井川さんは18歳の入院時に、医師にかけられた言葉が、強く印象に残っているそうですね?

井川はい。当時、大腿骨頭壊死の手術のために、休学する必要がありました。私はとにかくがんばる性格だったので「先生、私がんばるから」と言ったら、「がんばらなくて、良いんだよ。何でもできる子なんて、いないんだよ」と声をかけてもらって、そんな考え方があるんだとハッとさせられ、世界が変わったような気がしました。
一瀬先生も、検査の数値が良くなくて不安な時に「大丈夫、心配いらないよ」「SLEという病気は、こういう時もあるんだよ」と言ってくださるので、励みになりますし、「この症状はSLEによるものなのだ」と分かって安心します。私は遠回しな表現だと、自分の状態が分からずにモヤモヤした気持ちになりますが、一瀬先生は知りたいことをはっきり言ってくださるので、とても信頼しています。

一瀬SLEに限らず、病気の症状で困ったり不安になった時は、自分で抱え込んだり解決しようとせずに、誰かを頼ってほしいです。私たち医療関係者はもちろんのこと、同じ病気で悩んでいる人、ご家族やご友人ともうまく共有し合うことが大切だと思います。

井川自分一人で考えすぎると、精神的に追い込まれてしまいます。病気について分からないことは先生に相談した方が、早く解決すると思います。

またSLEは、体のつらさに加え、まだ分からないことも多い病気という点で、精神的なつらさもあります。つらい時は、思いを「吐き出す」のも必要だと思います。

一瀬患者さんの声にしっかりと耳を傾けて、一緒にゴール(治療目標)を設定していくことが大切ですね。ここまで井川さんのお話を伺って、医師が注目する検査数値も、患者さんが気になる症状も、どちらも重要で分かち合っていくべきことだと実感しました。

井川さんは入院中、ご家族やご友人などのサポートも心強かったと伺いました。

井川はい。家族は一番近くで私を支えてくれましたし、友人も入院中よく手紙を持ってお見舞いに来てくれました。また最初の入院時、私は先生や看護師さんとうまくコミュニケーションをとれる心の状態ではなかったのですが、同じ病棟に入院している子のお母さんたちが「大丈夫、がんばろう」「私が先生に言ってあげるから」と、いつも気にかけてくれて、そこから先生方とも少しずつ話せるようになりました。

一瀬先生、SLE患者さんのご家族に対して、アドバイスされることや心がけていらっしゃることはありますか?

一瀬親御さんは、将来お子さんが普通の生活を送れるようになるのか、またどのような将来設計が可能なのか、非常に心配されると思います。私は、人生の節目である進学や就職、結婚などは多くの方にとっては問題ないことや、治療による副作用の長期的な影響について、親御さんにきちんとお伝えしています。日本は幸いにして諸外国と比べてもさまざまな支援があるため、SLE患者さんがベストな治療を受けられる環境があることを説明しています。

SLE患者さんが働きやすい社会へ

  • 一瀬先生:

    “SLEのことを職場で伝える方が、患者さんにとって働きやすいこともあります”

  • 井川さん:

    “理解してくださる職場は心強いです。そのような考えが社会全体に広まるよう期待しています”

井川さんは、職場でご自身がSLEであることを伝えていらっしゃいますか?

井川はい。通院で仕事を休むこともあるので、SLEであることは会社に伝えています。具合が悪い時は、同僚の方もフォローしてくださるので助かっています。

一瀬先生、SLE患者さんからお仕事についてのご相談はありますか?

一瀬どこまで制限をかけずに仕事ができるか、というご相談はよくあります。必要に応じて、仕事をセーブしてもらうよう診断書を書くこともありますが、この時患者さんに、「職場に病気のことを伝えて良いか」を尋ねます。なるべく職場に伝えていただく方が、何か起こった場合の対応も含めて、働きやすいと思います。いろんな立場の人を理解できる職場こそが、本当に働きやすい職場だと考えています。

井川私もそう思います。病気を理解してくださる職場だと心強いですし、そのような考え方が社会全体にもっと広まれば良いなと思います。

本日は、ありがとうございました。

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